人物紹介<詳細版・ネタバレあり・微修正(2013.8.27.)>


【風刻の里】
〈主な人物〉

楸(ヒサギ)
主人公。金髪碧眼の少年。同じく金髪碧眼の母親と慎ましく二人暮らしをしていたが、母親が雷神の宮の抜け忍だったらしく、暗殺される。その際、偶然出会った朧に保護されて八歳で風刻の里に村入りする。元来明るい性格で人懐っこい。九歳で疾風(と公式ではないが朧)を師に迎えて忍術の修行を開始。体力の持続力と素早さに長けるが、これといって得意な得物はない。十四歳で下忍となり、下界へ『弥勒の書』収集の旅に出る。「楸」の字は朧から貰ったものであり、実の名は「ヒサギ」とカナ書きである。

朧(オボロ)
本名を美月(ミツキ)と言うが専らこの名を忌む。数え二歳で両親に捨てられて他国である玄武国へ移る。以後僧院で下働きをして過ごすが、六歳の時に僧院同士の争いに巻き込まれ住む場を失う。焼け跡で当時上忍であった十六夜と道順に拾われて里へ。 二人を師に忍術の修行をするものの、雷神の宮との戦でくノ一制度が廃止となり、忍びとしての道を閉ざされる。十二で共に暮らしていた十六夜を亡くし、一時藤間屋敷で住込みで下働きをするものの十三になると十六夜宅へ帰り、以後細々と小さな仕事を当てられて生活する。十四で楸を拾う。元々の性格は無愛想で負けん気が強かったが十六夜との暮らしで明るく成長する。

疾風(ハヤテ)
風刻の里の長の嫡子で位は中忍。弓や手裏剣等の間接武器を得意とするが、その立場から直接戦へ赴くことや任務を与えられることは少ない。九歳で下忍となるものの名目のみで実際の初任務は十三を待つ。十五の際に藤間家名代邸に一年の修行へ行き、十六の帰郷より中忍となる。表情を表に出さずに常に冷静であることを心がけるため「能面」と揶揄されることも。が想い人である朧の前では調子が狂うことがある。疾風の名は通称(第一子に伝統的に「甲矢(ハヤ)」という通称を与えるものが彼の場合更に転化した)。

綺姫(アヤヒメ)
疾風の実妹で楸の幼馴染み。母親の形見である赤いりぼんを常に身につけている。幼い時に母を亡くした為、人の死を恐れ、敏感に反応してしまう。八人衆の東雲を師に迎え、女だてらに槍術の鍛錬を行っている。周りから甘やかされて育ったせいでわがままで生意気な面が強く大人びたふりをするが、内心では人に拠り所を求めやすい性格でもある。楸を恋い慕っており、兄を敬愛するが故に両者と仲の良い朧を疎む。


〈里長〉
紫雲(シウン)
風刻の里の長で疾風及び綺姫の実父。藤間家当主。息子には長の器たれ、公私混同をせぬようと「長」と呼ばせている。同時に彼の師でもある。紫雲の名は妻・香(コウ)を亡くしてから正式に仏門帰依して名乗ったものだが、彼女の生前より将来的にこの名にすると公言していた(その為、妻も通称として「桜陰(オウイン)」を名乗っていたが結婚後「陰」の文字を「雲」に変えている)。実の名は「宗時(ムネトキ)」。雷神の宮との因縁関係を修繕しようと穏健派と交渉を重ねる。『弥勒の書』人の巻を持つ。


〈八人衆〉
玉秀斎(ギョクシュウサイ)
風刻の里の上忍。八人衆の頭であり、日常は長の右腕及び疾風と綺姫の目付け役として屋敷内を取り仕切る。戦忍として往時は名を馳せたが現在は一応前線を退き斎号を名乗る。引退後の現在は専ら疾風の稽古に付き合うか、綺姫の勉学を教えている。非常に落ち着いており乱れたところを見た者は居ないという。元々、左衛門佐惟政(サエモンノスケコレマサ)といい、長男であったが、紫雲に仕える為家督を弟に譲って自ら里へやってきた。旧知の仲の人物からは斎号以前の「惟政」と呼ばれる。

泰光(ヤスミツ)
風刻の里の上忍。八人衆の二番手で、玉秀斎と同じく往時は戦忍として名をとどろかせた。長家を信奉に近いほどに敬っているため、長家にあだなす者は例え身内でも容赦しない。疾風の傍をうろつく朧とは非常に仲が悪い。八字髭と年の割りに黒々して艶のある髪が自慢。酒が好きで酔っ払うと誰も手をつけられない。 正式には源泰光を名乗る。忍びとしての通称は用いていない。

道順(ドウジュン)
風刻の里の上忍。八人衆の発言権としては三番手に下るが、忍びとしての実力は現在では一位と思われる。戦忍として台頭した矢先に雷神の宮との戦で親友であった十六夜を失い、以後積極的に戦には関与しない。忍術の師を紫雲の実弟心月に教わるが彼が故人となった以後は紫雲に師事していた。ゆえに術としては里では珍しい心月派の系譜を伝える。春という名の妻が居るが病弱な為子を成せず、実子養子共に居ない。本名を早良道順(サワラミチノブ)という。

熊若(クマワカ)
風刻の里の上忍。三十三歳で八年前の戦の後に八人衆の一員となる。武芸は八人衆どころか、他中忍と比較しても抜きん出たところは特にない。しかし、自慢も嫌味も涙も全て潜りぬける彼の笑顔と話術は市井の調査と戦場の攪乱にこそ真価を発する。しかし、忍びとして構築したものではなく、あくまで天然である。

長門(ナガト)
風刻の里の上忍。熊若と同輩の三十三で八人衆着任の時期も同一である。さらさらの髪が自慢で年よりも若く見える。舞踊を趣味とする優男風の外見と反し、泰光に次ぐ武断主義。父方が武家、母方が公家と血筋が確かな割りに苦労して育った。長門の名は通称で、血筋の正当性を主張する為に名乗っているという。長家を崇拝している。

範正(ノリマサ)
風刻の里の上忍。視力が弱いため眼鏡をしている。真面目だが、正当な手段・意見に対して温情なく肯定する面がり、ともすると仲間を見捨てることも厭わない性格。竹田家の次男であったが、放蕩だが天才肌の長男に嫉妬心と劣等感を抱いており、その為か粘着質な部分がある。武術・勉学ともに釣り合いが取れており、算術に長ける。趣味は炊事。

彦四郎(ヒコシロウ)
風刻の里の上忍。本名を和田頼胤(ワダヨリタダ)という。彦四郎の名は元服前の名前であるが、そのまま通称と化している。藤間家とは旧知の家柄で、小姓として里に派遣される。年の割りに若く見え、世話好きで笑顔を絶やさない。その性質から順忍として重宝される。

東雲(シノノメ)
風刻の里で最も若い上忍。里に根付く武家・熊谷(クマガイ)の一人息子で名を通雅(ミチマサ)という。疾風の親友であり兄貴分でもある。戦いは得手としないが、そこそこの腕前を持っており、綺姫に槍術を教えている。背が高く、顔立ちが整っており目立つため、諜報の役には当てて貰えない。優男風の外見とは反して義理堅い面があり、彼が仕えるのは藤間家というよりも紫雲、疾風の個人である。趣味は扇子の収集と琴、三味線、舞。


【雷神の宮】
〈里の中心人物〉
五十鈴(イスズ)
雷神の宮のくノ一。元は雷神の宮の巫女で、先の戦をきっかけに命の恩人である西の将・爐を慕い(当時はまだ将ではなかった)、くノ一として仕えていた。彼の死後は、東の将・焔の配下となって仇討ちのため風刻者を付け狙う。貴人なだけあり、お遣い程度しか任せられないが、元来の血気盛んで向こう見ずな性格から敵に戦いを挑むこともしばしば。これは今まで周りの膳立てで全ての事が成功していたことを己の力だと過信していたところからくる。信頼すれば盲目に信じるが、憎めば疑う余地無しと両極端であるが、根は優しい。

常盤(トキワ)
雷神の宮の里長の息子で“宮”の神主。病身の父に代わり長代行を務める。その傍ら、穏健派の頭として紫雲と停戦の盟約を結ぼうとする。純血主義の強い雷神の宮の中で神官家にして外の血を認めるため、一部回帰派からは売神の神主だと痛烈に批判されている。 五十鈴とは親戚(従兄)の関係にある。

巫(カンナギ)
雷神の宮の生き神である“明神(あきつかみ)”であり“巫(かんなぎ)”。生まれながらにして生き神として祀られているために、人間としての名前を与えられなかった。五十鈴の実の双子の姉である。五十鈴はこのことを気に病み、彼女に神とは関係のない名“瑠璃(ルリ)”と呼ぶが、この名すらもその実“瑠璃光”を暗示する。八年前の戦で五十鈴を庇って失明する。


〈八将〉
燈(アカリ)
雷神の宮北の将。雷神の宮の中でも過激な純血主義の回帰派頭。八年前の戦の後に北の将となった。戦災孤児で、神官家の保護によって成長した為に巫と神官家への信仰が強く、それらを汚す血を徹底的に排除しようと度々郷内の粛清も行ってきた。信じていた常盤の言葉に疑念を抱き、彼を監禁する。また、本来雷神の宮の聖域であった山中に里を作った風刻の里を排除しようと考えている。

爐(イロリ)
雷神の宮の西の将。四将の中では一番の若手。右目に縦の刀傷を持ち、斬馬刀を操る。戦いを遊びの一環と考えている節があり、残虐な行為も平気でする。燈を兄と慕っており、少年の頃より付き従ってきた。人間の才能や変わり者に惚れることがあり、その場合敵味方関係なく自分の軍門に下るよう要求する。但し彼が無能と判断した者に対しては容赦なく命を奪う。

焔(ホムラ)
雷神の宮の東の将軍。八年前の戦より将だった。往時は血統主義の過激派だったが、妻との出会いによって穏健派となる。里内の粛清が行われるまではよくいる若者風であったが、年とともに寡黙となる。北の燈とは折り合いが合わぬが、規律は守る性格であるためか、『弥勒の書』奪還の命は聞き入れた。雷神の宮の下界での『弥勒の書』奪還作戦の頭。任務外にも関わらず楸の命を狙う節がある。

炬(カガリ)
雷神の宮の南の将。八将軍の中で唯一の女性。鎖鎌と鉄扇を得意とする。八年前の戦当時から八将であった。飄々として負けん気が強いが敵対する相手には残忍で毒婦となるも厭わない。過去のいざこざから燈をあからさまに嫌っているため、『弥勒の書』収集の任務を与えられるものの遂行せずに放浪している。但し風刻や僧院に集められぬよう工作のみしている。煙管を収集することが趣味。

石竹(セキチク)
雷神の宮西南の将。本名比古(ヒコ)。但し殆どの人間は「彦」の字を書くために半ば後者が公式化している。代々薬師の家に生まれるが、五十鈴がくノ一の修行を受けるや否や自ら志願して忍びとなる。真面目で裏切らぬ性格から頭角を現し、南の将・炬預かりとなる。その後戦後に八将に昇格。下忍を飛ばし中忍となる大出世だった。炬のせいもあるが、彼の生来の優しさゆえに見せる甘さは否めない。童顔。

葉陰(ハカゲ)
雷神の宮西北の将。本名高丸。代々上位の忍びを排出する家に生まれる。前の戦での人員整理後に八将となる。一応爐の預かりであったが、単独行動が目立つため放置されていた。誰からの指令であれ自らの見聞を第一に考え、不適切だと判断すれば遂行中断する。朴とつな性格で何を考えているか分からないところがあることと家格の高さから、その際も不問に終わることが多いが、専ら五十鈴と彦のために戦っている。

臙脂(エンジ)
雷神の宮の東南の将。焔の配下。八将の一人であるが、専ら焔のために尽くし、彼の影として行動する。焔離郷中はもっぱら里の監視を行う。

紫紺(シコン)
雷神の宮東北の将。燈の配下。回帰派・穏健派ともに属さぬが、臙脂への私怨から燈の配下となる。


【僧院】
竜安(リョウアン)
行脚の僧でその目的は『弥勒の書』の収集である。元は白虎国の人で青龍国に招来され、臥龍寺(ガリョウジ)に居たが廃寺として移動、臥竜庵を結んでいた。貧しい人たちに施しを与えていたため「生き菩薩」等様々な異名を持つが、反対に若い頃僧兵として名を馳せた為「白虎の悪鬼」とも呼ばれる。錫杖の技が得手とするが、戒律を守る為と言って自ら手を下すことはしない。しかし一見哀れに見えても正当なことであれば自ら手を下すこともある。一つの仏典に重きを置くことを厭い、特定の宗派に属さず、僧院勢力内でも賛否両論である。

観月(カンゲツ)
竜安に拾われて以来彼の弟子兼護衛となる。記憶喪失だが、唯一仏典の知識を持ち生き延びる。真言の習得を本願としている。前髪を長く伸ばし常に半眼の体をとっているため、真の表情は不明。表情に乏しいが次第に竜安、良恵に心を開いていく。ぶっきらぼうで竜安に対してでさえ慇懃無礼な態度をとることもあるが、心の底では非常に敬愛している。

良恵(りょうけい)
玉竜の弟子で、剃髪の僧。武家生まれの長子だったが、とある件から出家。不殺生の誓願を立てる。玉竜の命で竜安に合流して以降彼の手助けする。温和で気が長く、争いを好まないが、身内の危機には身を呈して庇う正義感も持つ。その腰には不釣合いな朱色の二本の刀「羅刹姫(ラセツキ)」を佩く。彼を僧とした因縁の妖刀である。観月には言われたい放題だが珍しく懐かれている。

玉竜(ギョクリュウ)
竜安の兄弟子。現在は龍眼寺の住職で三蔵の称号を持つ。元々『弥勒の書』の収集は彼の役目であったが、収拾自体は弟子の竜安に託し、当人は訳経に専念する。学僧的な面が強い。穏やかな性格であるが芯に一本通っており、ゆえに頑固な面も見せる。竜安をも手懐ける。


【下界の人々】
策次郎(サクジロウ)
浪人の少年。青龍国の大店の出だが、呪の能力を重視する国で無能者であった。そのため幼い頃に自ら親に申し出て玄武国の武家の猶子となる。猶子先の井坂道場で家宝「甘露丸」に見初められて妖刀の主となる。額に大きな刀傷を持ち、その傷をつけたくノ一を探し諸国漫遊する。一見人当たりよく見えるが、その実執念深く、一旦嫌ったものを受け入れない性質がある。

祀(マツリ)
疾風の許婚候補の一人だが、実質候補は彼女しか残されていない。蓮見という町の有力な武家。武家の子女だが、世間と反して武術の訓練を受けていない箱入り娘。そのため世間知らずな面がある。華奢で可憐。おっとりとしていて物怖じしない面も。

虎彦(トラヒコ)と瑞江(ミズエ)
風刻の里の忍びとその妻。朧、疾風とは旧知の仲である。現在神島(カシマ)の町に帯屋を装った物聞として滞在している。虎彦はあっけらかんとした人の良い性格で戦忍ではないが、どちらかというと武を嗜み、瑞江はおしとやかに見えて芯の強い性格をし、毒薬を作るのを得意とする。


【物語開始時の故人】
十六夜(イザヨイ)
朧の育て親であり、忍術の師。若くして上忍となる。飄々とした性格で向こう見ずなところがあった。私生活はだらしがなかったが、忍術には抜きん出た才能を見せた。風刻の谷にて雷神の宮との戦の決着をつけるものの、その代償に彼の死をもたらした。本名を望月基芳(モチヅキモトヨシ)といい、望月本家の次男であった。

桜雲(オウイン)
疾風と綺姫の実母。本名香(コウ)。三人衆という八人衆の上部組織で唯一のくノ一頭を務めており、長の「影」でもあった。有能なくノ一であったが雷神の宮との戦の末、部下を庇って無残で不名誉な死を遂げる。あまりの惨殺ぶりに里民全員一致でくノ一が廃止されるに至る原因を作る。

心月(シンゲツ)
紫雲の実弟で十六夜と道順の師であったが、怪我が元で早く前線を退く。『弥勒の書』の地の書を授けられるが、書物諸共雷神の宮との戦の際に谷底に落ちる。

慈雲(ジウン)
玉竜の師。『弥勒の書』の写本作成や意義に至るまで、その全貌を知る人物であった。

寒月(カンゲツ)
玉竜の兄弟弟子。寺の高僧であり、『弥勒の書』収集の使命は元は二人に託されたものであった。



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