第七章 挽歌(2)

 線香の煙がくゆる。楸はゆらゆらと棚引く煙が蔀戸の外へ逃げてゆくのをヨトギの間中眺めた。
 目の前には決して大きいとは言えぬ木箱が置かれていた。煙はその前から箱――棺を取り巻くようにして漂う。
 棺は村人たちが戦い収束の翌日に運んできたものだった。村人の数人が楸の家にやってきて、布を敷いたり祭壇を作ったり線香をさしたりと慌しかった。普段のんびりと野良仕事をしている男勢の何人かも、組の年長者の指示に従っててきぱきと動く。こういった葬礼に際して村が手伝いの人員を取り決めているのだ。
 読経は里からやや離れた山寺に住む莞爾という背の低い老人の尼が行った。楸は話にしか聞いた事が無かったが、生前より朧と親しかったそうで、彼女の死を深く嘆いていた。
 楸は村人が慌しく家を飾りつけるさなか、他人事のように忙しいことだと考えていたのだった。
「俺はお前の姉さんのお陰で命拾いしたのに手伝いしか出来ねぇですまねえ」
 出来上がった祭壇に下忍の男が線香を立てる。橋の番をしていた男だった。
「朧にゃ身内がいねぇから俺らが手伝うが、村人と認められてねぇから小さな葬式になる。許してくれ」
 村人の一人が気遣わしげにそう言ったが、楸は相槌を打つ気力ですら身体から根こそぎ抜け落ちていた。
 その後も代わる代わる訪問者が来ては線香を立てて帰って行く。上忍からは疎まれた朧も、下忍や中忍といった家柄の村人たちからは親しまれていたようで予想以上の弔問があった。恐らくは彼女が日頃から田畑の仕事や、或いは針仕事を手伝っていたからだろう。中には読み書きを習ったという下忍の子どもまでいた。しかし、一体誰が来て誰が帰ったのか、ぼうっと祭壇を眺めるばかりの楸では把握し切れなかった。
 途中、周りの上忍たちの目を盗んで来た春が訪問者の対応をしてくれた――そのことはかすかに覚えている――が、夕刻になるとそそくさと屋敷に戻って行った。村人とも言えぬ下級の者の葬礼に参加した事が上忍たちに公になれば、夫の道順の立場に影を落としかねないからだ。
 楸は果たして入る者の居らぬ死出の囲いに如何なる意味があろうかと思った。
 人は荼毘に付されると火によって灰になり、空に上がって風に吹かれ、雲を通って月へ行き、雨となって地に降り、草となり、人に還る。このようにして生命は循環するのだ。そう言ったのは他でもない朧だった。だが空の棺では生命の循環など到底あり得まい。中身がない故に荼毘に付したとして人魂すら現れぬだろう。
 楸は不意に立ち上がり、棺蓋を開けた。真菰が敷かれ、その上に白衣装だけがきっちりと畳まれている。本来であれば死人はこの衣装を着て座していなければならないのに。楸が白衣装を取り出し、じっと見つめる。葬礼用にあつらえたばかりの白衣装からは誰の顔も思い浮かんでこない。彼は再び棺の中に衣装を仕舞うと、壁に背をもたれてどっと座った。
 本当にこれが朧の葬式なのか。
 楸には実感が沸かなかった。故に、棺の中に彼女の愛用の品は一切入っておらない。そもそも、彼女の私財といえば着物や文具くらいで、他に何も無いのだ。
 二人で暮らしていた時、この家はとても豊かだった。己と母が暮らした山小屋に比べて、何と物に溢れているのだろう、とありふれた椀や桶、柱のひとつひとつが輝いて見えた。しかし、真実は違ったのだ。いざ蓋を開けて見入れば、二人の生活は実に慎んだものだった。だが、余分を持たぬ家でも、大切な相手と暮らせばそれは十分に豊かだったのだ。足りぬものなど何ひとつないと思えた程に。
 懐を探る。ひとつ、入れるか入れまいか迷っているものがある。――櫛だ。
 先日疾風が朧の髪に挿した梅の花の櫛。簡素で高いものではないが、これからの人生で朧が大事に持ち歩くはずのものだった。もしもあの世に届くのならば、いずれ煙となって朧の手元に辿り着くなら、棺に入れるのも良いかもしれない。それなのに、葬送は明日にも関わらず楸は未だに迷っていた。というのも、やはり心の大半を「これは朧の棺ではない」という気持ちが占拠していたからだった。
 夜半を過ぎても楸は食事を摂らなかった。とてもではないが食べる気になれなくて、他にしたことといえば蝋燭の火を点したのみだった。訪問客も途絶え、肌寒い初夏の空気ばかりが蔀戸の隙間を縫って忍び込んでくる。微かな冷たさを肌で感じながらも、既に羽織の類は必要ではなかった。
 夜闇はすっかり頼る者のなくなった心の筋道をより細く塞ぎ込もうとするかのようだった。暗闇の中で、楸は己が起きているのか、はたまた知らず知らずのうちに眠ってしまったのか分からなくなっていた。傍で心細く光る蝋燭の火も、手の内にある櫛すらも現実味を失って幽玄へ旅立とうとしている風に感じられた。
 だが、ふいに戸が開く音がして、楸ははっとした。軒先に吊るした忌みのしるしである白布がそよぐ。その前に見慣れた青年が無表情で立っている。
「邪魔をする」
「疾風……」
 てっきり八人衆たちに反対されてこの家には来ないと思っていた。疾風は草履を脱ぐと座敷(デエ)に上がり、線香も立てずに楸の横に座る。薄らと疲労の色を見せているように感じられたが、単に夜闇のためかもしれなかった。
「疲れては居ないか。寝るのなら代わりに番をするぞ」
 疾風がぶっきらぼうに言った。
「うん。いいや……」
「そうか」
 弔問ではないのだろうか。楸は些か不審に思った。弔問であれば普通は線香ぐらい立てるはずだ。だからといって、疾風はそのように不作法な心得の人物でないのは誰よりも分かっているつもりだ。それに、楸自身も疾風に線香を勧めようとは思わなかった。むしろ疾風が線香を立てぬことによって、奇妙にも、やはり朧の棺はこれではないという連帯を味わっていた。
「明日のことは聞いたかい」
「うん、一通りは」
 楸は疾風を見つめてぼそりと答える。
「そうか」
 疾風も多く語らなかった。
 明日の葬式では風刻の谷で僧が経文を読み上げ、散華する。谷で人が亡くなった場合、郷のしきたりでそうするらしい。経文は普段人が亡くなった時のものに加え、谷底の風神を鎮める特別な呪文も読まれるという。本来であればかずら橋の上から散華し、供物の一部を撒くのだが、橋を切り落としてしまったために袂で行われる。
 埋葬地へはその儀式が終わってから行く。本来村人でない朧は藤間郷内での埋葬を禁じられていたが、特別に無縁墓地への埋葬を許されたのだった。
「それ、棺に入れるつもりかい」
 疾風が楸の傍らに置かれた櫛を見つけた。
「ううん。迷っててさ。おーちゃんが居ないのに入れてもなーとか、でもおーちゃんならそのうち見つけ出してくれるかなーとか……。はは、は」
 どうしてか、薄っすらと笑いがこぼれた。己でも笑おうなどと思って居らなかったはずなのに。
「無理をしなくて良い」
 そう言われたものの、己が無理に明るく振舞おうと努めているわけでもなかった。何故か己の意思とは裏腹に笑みがこぼれたのだ。楽しいわけでもなければ、悲しみが引いたわけでもなかった。変化したと言えば、恐らく来ることはないだろうと考えていた疾風が訪れたことで、ほんの少しだけ安堵したくらいだ。
「その櫛だが――」
 疾風が櫛を見つめる。
「私に預けてはもらえないだろうか」
「え……」
「せめて彼女が見つかったら、私が渡したいのだ。一度しか差してやれなかったしな」
 戸惑いを見せる楸に、疾風は表情を和らげる。櫛を受け取り、彫りの甘い梅の絵を蝋燭に透かす。
「でも疾風、遺体は連れ戻せないって――」
「そうだ。希望は殆どない。仮の話だ。だが、情けないことに私はまだ信じられないのだよ。そのうちに朧はひょっこりと帰って来るのではないか。そういう希望を拭いきれない」
「疾風……」
 あり得ないことだった。彼にしては夢想じみていた。しかし、同時に、真にそうであればどんなにか幸せだろうと希う己が存在している。疾風の妄言は決して他人事ではなかった。
 楸は、昼間、疾風を冷たいと思った。だが、今や撤回しなくてはならない。己が朧を諦められぬのと同じで、疾風もまた彼女の突然の喪失を諦めきれないのだ。
 蝋燭の火が櫛の透かし模様をすり抜けて疾風の顔を照らす。火が形作る小さな星に似た灯り。彼はその輝きの中に在りし日の情景でも思い出したのだろうか。和らいだ口元に自嘲めいた感情が宿った。
「苦しんで死ぬ、とはあのような意味合いではなかったのだが」
 己を責めているかのようだった。疾風は一瞬瞑目し、真の意味合いを口にせぬまま懐に櫛を忍ばせた。
「君にも同じように辛い役を押し付けることになる」
「どういうこと?」
 視線がかち合う。楸はこの時、漸く疾風の瞳が酷く寂しげだと気付いた。そして、彼の瞳に映る己もまた酷く頼りない姿をしていた。
「君は下忍になる。酷なことだが正式な喪が明けぬ内に旅立ってもらわねばならない」
「俺も里から出て行かなきゃいけない……?」
 突然、不安が襲う。
「そうではない。風刻の忍びとして働いてもらうのだ」
「なら、里に居ても――帰って来ても良いんだよね」
「勿論だ。心配だったかい」
「……少し」
 東雲から朧が里を離れる話を聞いた時に、心の何処かで朧亡き今、己も追い出されるのではないだろうかと案じていた。己の居場所は朧その人であった。故に置いて行かれるはずだったと聞いて傷付いた。こうして朧が居らなくなった今、楸にとって居場所と呼べる存在はこの里でしかなかった。朧が在れば、どのような地でも共に行けた。だが、独りで里を追われて安住の地を探すには楸はまだ若過ぎた。
「安心すると良い」
 疾風が楸の背中に手を回す。手のひらの熱がいやに温かく、楸は彼に包み込まれているかのように錯覚した。
「これ以上君の拠り所をなくさぬよう、私も里で尽力する」
 楸は膝を抱いた。心細い時、寂しい時に抱き寄せてくれた朧はもうここには居ない。
 蝋燭が尽きた頃、空は幾つかの星だけを残して明けようとしていた。昼間の雨が雲を押し流したかのように一点の曇りもない晴れ空だった。




 喪の期間はひと月と定められた。肉親であれば三月から一年の喪に服すことになっていたが、楸は正確には朧の肉親ではない。故にひと月だけ死者を弔うように言い渡された。本来であれば四十九日の法要まで待ってやりたかったのであるが、逐一下界の忍びより報告される雷神の宮の動きを聞けばそうもいかなかった。
 楸は葬式の後に疾風と八人衆の見守る中、紫雲より下忍の位を賜った。同時に、楸の他にも守備の増強として数名の男衆が下忍に任命された。村中へは触れの形で発表され、村人を藤間屋敷に召集することも、宴を催すこともされなかった。
 ただ、『弥勒の書』については全ての忍びが屋敷に集められ、此度の争いの説明とともに周知された。里の衆総出で書を、ひいては村を守るためであった。仮に“草”が紛れていようが、この発表が漏れても大したことはないと判断された。楸と同時に下忍となった数名は“草”が居た時に備えて今後の作戦を霞に隠すためのものでもあった。
 下忍を拝命したことはとても嬉しかった。漸く朧や疾風との修行の成果が明らかな形となって実を結んだのだ。しかし、心の底から喜ぼうとしても、喜びを分かち合いたい人間が隣に居ないことで僅かに虚しさが身を蝕んだ。いかんしても埋めがたい隙間が胸にぽっかりと空いているのだ。
 喪が明けるまでの間、楸の手は殆ど旅の支度と家内の整頓に取られていた。旅支度は主に忍び道具や刀の手入れ、それに飢えを凌ぐための食糧作りや草鞋編みである。時たま疾風や春が顔を見せに来たが、必要がなければずっと家に閉じ籠ることが多かったため、これまで毎日と言って良いほど共に居た綺姫とは久しく顔を合わせていない。疾風に聞くところに拠れば、彼女は襲撃の後から塞ぎがちで自室に籠ってばかりだと言う。里を出立する前に一言挨拶でも出来ればと考えていたが、服喪の楸が藤間屋敷に立ち入ることは出来ぬため、諦めざるを得なかった。
 旅立ちの日、見送りに集まった人々は意外と多かった。密命のため、郷内でも秘かに出立する予定だったが、葬式を手伝ってくれた男衆の殆どは顔を出してくれたし、春は道順を連れて顔を出してくれた。疾風と東雲は八人衆の咎めを無視して見送りに参加したが、綺姫はまだ部屋に籠っているらしく、兄の誘いも断ったようだった。
「気をつけてな、楸」
 東雲が楸の頭を撫でた。着物の隙間からは漸く塞がった刀傷の痕が見える。
「はい! 東雲様はもうお怪我は宜しいんですか」
「ああ。雨の日はまだ少し痛むが、お陰様で槍が振るえるまで回復した」
「良かったぁ」
 ほっと胸を撫で下ろす楸に東雲は口元を緩める。
「楸もあまり無理をしないように。下界には里の忍びが居る。彼らを頼って行きなさい」
「うん! 疾風。大丈夫だって! 俺がちゃっちゃと『弥勒の書』を集めてくるから安心して待ってろよな!」
 楸はにやりと笑みを浮かべて得意げに胸を叩く。本当は気分が高揚しているからではなかった。不安と緊張を胸から追い出したかったのだ。疾風は楸を見て、珍しく分かるように微笑んだ。楸は、彼が己の心情に気付いているのだと覚ったが、それよりも物珍しい表情にまじまじと見つめてしまう。
「やけに顔が近いな」
「そりゃあさ」
 珍しいもの、と言おうとして、楸は言葉を止める。背後の人々からは見えぬのだ。
「元気出たから!」
 楸はにっこりと歯を見せる。
「じゃあ、俺、もう行くね。そろそろ行かないと、ずるずるとここに居そうだ。綺姫にも宜しく伝えといてくれよ」
 そして、高らかと手を振る。指先の向こうに陽が強く照りつけていた。光で目が眩む。里に背を向けると楸は一気に新緑の木々の間を駆ける。木々のざわめきを聞けば不安に押し潰されそうになる。だから、ざわざわと己を誘惑する音など聞くまいと、ただ己の足が駆ける土の音ばかりに耳を傾けた。
 長い旅の始まりだった。




 夜半、月は濃い雲にその身を隠していた。
 疾風は漸く来たか、と大岩に下ろした腰を上げた。
「どうしてそこに居るの」
 妹――綺姫の声は戸惑いに満ちていた。里の者全てを出し抜けた、とでも思っていたのだろう。大きく潤んだ瞳に緊張が走る。
「来ることは分かっていた。綺」
 両手で握りしめた刃のついた槍、いくらかの道具の入った風呂敷、それに編み笠。旅装だ。山の夜道は暗い。だが、闇の中でも疾風は妹の考えが手に取るように分かった。
「楸を追いかけるつもりだな」
 言い当てられて綺姫は唇を固く結ぶ。ここひと月、部屋に籠っていた理由はどこかで漏れ聞いた楸の出立に合わせて己も旅支度を整えていたからだろう。念入りに侍女たちに覚られぬよう支度するとは大したものだった。草鞋も編んだことのない妹が、今まさに手ずから編んだ草鞋を履いている。しかし、所詮は子どもの企みに過ぎない。身近な者の死に面して塞いでいると思わせながら、彼女が陰で何をしていたか、疾風や紫雲にはお見通しだった。
「楸を追うのはやめなさい。危険だし、働きの邪魔になる。君は藤間の姫だぞ」
「嫌よ!」
 頑固な妹が兄に咎められただけで素直に引いて従うはずはなかった。
 綺姫は疾風を睨みつけ、一歩も引かない。今まで彼女が兄を睨みつけることなどあっただろうか。否。父と兄に対しては常に従順だったはずだ。それなのに、彼女の瞳ははっきりと言いつけには従わぬと語っている。
「私は兄様と同じ思いをするのは嫌! だから止められようが勘当されようが楸を追うわ! 朧みたいに大切な人に背を向けたまま何処かへ行ってしまうなんて許せない! 取り残される者の気持ちなんてちっとも考えてないのよ、朧も、楸も!」
「だが、楸は君を必要とするだろうか」
 妹の気持ちが真剣だとは分かっていたが、疾風は意地の悪い質問をする。
「そんなこと考えていたから、兄様は朧の本意を引き出せなかったのじゃない! 私は楸に必要だって言わせてみるわ。そのためにも道を開けて!」
「そんな理由で通せると思っているのか」
 疾風はため息を吐き、狭い下山路を塞ぐように立ちはだかる。暫しの逡巡の後、綺姫の両手に力が籠った。
「だったら力ずくで兄様を――」
「これを持って行きなさい」
「え?」
 差し出された書状を見、綺姫は拍子抜けして疾風の表情を伺った。意図が分からない彼女は暫く兄の手元の書状をじいっと見つめる。
「玄武国三十六か所参りの一覧と地図だ。楸に託すのを忘れた。彼に届けられるね?」
「は、はい……」
 もう一度差し出されて、綺姫はやっとのことで素直に書状を受け取る。決してなくさないようにと釘をさされると、彼女は頷いて背負いの風呂敷包みに書状を仕舞った。
「二人で無事に帰ってくるように」
「はい。兄様」
「なら早く行きなさい。麓まで熊谷の忍びに送らせよう」
 疾風は背を向けた。頭上を東雲配下の忍びが飛ぶ。綺姫は兄の背中を見ながら深々と頭を垂れた。
「有難うございます、兄様。それと、偉そうな口をきいてごめんなさい。父様にも、有難うと伝えてください」
 土を踏む小さな足音が遠ざかる。一人は山を下り、一人は里へ帰る。
 疾風は綺姫の一途さが羨ましかった。若い無謀さが羨ましかった。家という見えない糸で縛り付けられている己には決して取れない行動だった。己が糸に絡み取られるのを分かって抗うのを諦めたのに比べ、同じく見えない糸で縛り付けられているはずなのに、自ら破ってでも抜け出そうとする妹の何と力強いことか。
 但し、それは責任の重石が見えぬ者にしか出来ない。己が死ねばこの里も死ぬと知らぬ者にしか出来ぬのだ。それだけの重いものを今は紫雲が支えているが、じきに己が継がねばならない。無邪気な妹にこの重圧を押し付けるのは可哀相だった。代わりに、己の成せぬことを妹に託すのだ。
 疾風は懐から櫛を取り出した。綺姫の言った通り、何も考えずに懸想していれば朧との関係はどこかで変わったのだろうか。ふと、自問して馬鹿馬鹿しい疑問だ、と苦笑した。




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